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異国見聞私書録

異国から見たこと感じたこと気になったこと。そして時折テクノロジーのお話。

英語のマスターは必要条件だが、十分条件ではない

他言語を習得することは大切だ。

英語をマスターするというのは“大きな図書館の鍵”を受け取ること-会議通訳者・高松珠子氏インタビュー(後編)

図録▽人の移住範囲の国際比較

しかしこの点において、日本人のおかれている地理的条件はなかなか難しい。海に囲まれているというのは、他国との接触を難しくしている条件の一つではあると思う。英国は海に囲まれている国ではあるが、過去、世界中に良くも悪くも積極的に出ていった。これぐらい多少強引な意識がないと、島国の国際化は難しいのかも知れない。

大陸のほうのヨーロッパは、多数の国が国境を接しており、「となりの県」に出かけるぐらいの感覚で行けてしまう。言語も異なるとはいえ、類似した言語体系から成り立っているので、日本人が英語学習にかける時間と比べて、はるかに短時間で習得している。こうした背景からも「さまざまな国で暮らしてきた」率が高い国はヨーロッパに集中しているのも頷ける。きちんと調べたわけではないが、国際結婚率も日本に比べて高いことは肌感覚で理解できる。両親の母国語が異なるため、話せる言語数が英語含め3つ以上、あるいは4〜5ヶ国語以上という人もざらにいる。

 

話は少しそれるが、英語をマスターする必要性を説くことや、企業経営者がグローバル化を声高に叫ぶのは、ある程度理解出来なくもない。ただ、問題は日本の現状がどうなっているかを理解しないまま、条件反射的に「英会話」や「グローバル」を叫んでいるところにある。グローバル化の目的、およびそれに向かうための問題点が見えないまま英語を習得しようとしても間違いなく失敗する。長期間、松葉杖をついていた者がいきなりそれを取り上げられて平原を全力疾走しろと言われてもできないのと同様に。

日本人は「鎖国マインド」を根深く継承している。仲間同士の阿吽の呼吸を重要視するところや、お互いに評価を過剰に気にする点など、それの一端の現れであると思う。これを全面的にいきなり是正するのは無理があるが、時間をかけながら妥協点を見出していくことならできるはずである。難しいことではあるが、異文化を受け入れるには時間をかけながら理解し合うしかない。

ヨーロッパ諸国も長い時間をかけて、今の状態までに持ってきている。それをほんの数年で日本の「グローバル化」を期待されてもできないのは至極当然だと思う。おそらく「グローバル化」を叫けんでいる企業の従業員のほとんどは気づいていると思うが、この言葉は短期的な利潤確保の表現手段であって、文化や慣習が融合していく、本当の意味での国際化は別に望まれているわけではない。利潤確保は企業の目的であるので理解はできるが、それなら「グローバル化」などという意味がよくわからない言葉で隠さず、端的に「海外で稼いでこい」と言ってほしいものである。回りくどい言葉でないと人が動かないのであれば、それは別なところに原因があるのだ。

 

話を戻したい。他言語を習得することは、目の前の世界を広げることにほかならない。書物を読むことが時間を超越しての対話だとするならば、他言語の習得は空間の広がりに当たる。

筆者がこの意味を肌で実感したのは地震と原発事故の時である。とある一定空間に存在していたのでは見えないことが、他の空間からは見えることもある。より正確なことは近くにいては聞こえてこないこともあり、距離が離れていたほうがいいこともある。情報を自分なりにまとめるには、多元的に収集するほうが精度は増す。

その文脈において、他言語を習得することに意味はあると思う。しかし、もっと深い意味で異国との理解を深めるには言語だけではまだまだ足りない。課題は山積している。