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異国見聞私書録

異国から見たこと感じたこと気になったこと。そして時折テクノロジーのお話。

クマラスワミ報告書への「反論」は知性劣化の証し

politics thinking

 長文で読むのに時間はかかるが、ぜひ一度目を通すことをお勧めする。

クマラスワミ報告書 - 日本語訳 (http://www.awf.or.jp/pdf/0031.pdf)

 このブログでは今後、従軍慰安婦と呼ばずに、クマラスワミ報告書にあるように「性奴隷」と表現したい。

 さらにまた18年前にこの報告書に反論する文書も提出されていたようだ。一般公開はされていないようだが。

【阿比留瑠比の極言御免】クマラスワミ報告書に反駁 幻の反論文書を公開すべき(1/3ページ) - 産経ニュース

 上記の記事にあるように、筆者は反論書があるなら公開すべきだと考える。ただし、その公開すべき動機は記事が述べている主張とは真逆で、反論書の愚かさを露呈させるべきだと考えるからだ。

 

 歴史を少し振り返れば、戦争状態やそれに伴う占領があった地域で、略奪や暴行がなかったという事例を探すほうが難しい。戦時下にあって強制性のない性奴隷の存在などあるわけがないのだ。

 性奴隷にした「証拠がない」というのはよく使われるフレーズである。確かに法的に犯罪を立証するには証拠は重要となる。だが先に述べたように、戦争状態にあるところで略奪・暴行のないところを探すほうが難しい。「略奪・暴行はあった」という前提と姿勢で当然調査に臨むべきだし、「証拠がない」からという逃げ口上ありきの姿勢で性奴隷の問題に取り組むのは大きく間違えている。

 クマラスワミ報告書を読むと、性奴隷として連行された女性たちは「性奴隷制度」とでもいうべき、ある種システム上に載せられていることがわかる。軍の関与ができるだけ目立たない形で運用された形跡がここから見えてくる。 どうして制度化する必要があったかといえば、それは蛮行を効率的に行うためである。これには蛮行の証拠をできるだけ管理し、後に発覚しても証拠をできる限り残さないための工夫も含まれる。

 こうした蛮行の制度化は日本以外でも見られる現象だ。ナチス・ドイツのユダヤ人絶滅政策もその一つだ。できうる限り効率的にユダヤ人たちを強制収容所に「運搬」し、そこで効率的に虐殺する「行政」が事細かに進められた。官僚たちの日常業務の一環として、それは組み込まれていたのである。ナチス・ドイツが敗退が確定し、虐殺の証拠隠滅をするためにもこうした「制度」は有効だったことがわかっている。

 こうして見ていくと「証拠がない」のはある意味頷ける。情報が巧妙に管理されていれば、証拠は全くなくなることはないが、罪を逃れる、または軽くするために少なくすることは可能なのである。だから、「証拠がない」という言い訳はこうした大規模に制度化された犯罪の下では意味をなさないのである。

 

 反論書の話に戻そう。反論書の内容は公表されていないのでわからないが、推察するにこうした「反論」が政府から出てくるということは、性奴隷の存在を認めることを拒否していることに等しい。どんな戦時下にあっても自分たちは「きれいな戦争」をしてきたと主張したいのだろう。もしくは、ほかの国も性奴隷制度をやっていたのに自分たちだけがクローズアップされ、批判されるのはおかしいと言いたいのだろう。

 何度も書くが、きれいな戦争など存在しない。戦争状態下では蛮行は必ず行われる。どんな美談、キレイ事、大義名分を並べても、人類の歴史で戦争が「きれい」であったことはない。絶大な混乱と絶望をもたらすのが戦争であることは疑う余地はない。

 他国も性奴隷制度をやっていたからといって、自分たちの罪が軽減されるわけではない。これは子どものいい訳である。もしこの理屈で反論書が提出されていたとすれば、それは赤恥もいいところだ。「成熟した国ではない」ということを国連の場で正式に表明したことに等しい。

 上記で引用した記事には「日本政府がいったん明快な反論文書を作成しておきながら、なぜかすぐに引っ込めた」とあるが、その理由はこうした「子どもじみた理屈」にあるのではないだろうか。あまりに赤恥な反論で、世に出したくなかったのではないか。「その後は反論文書自体をなかったことにしている」とも書かれているので、ますます怪しい。ぜひその反論書に目を通したいものである。

ちなみに筆者が考える、この問題における成熟した国とは、戦争下の罪について正式に国と個人に謝罪し、その反省を事例として蓄積でき、他国にもその行動を範として示せる国であると思う。それにつけても内容はどうあれ、反論書を国連に送りつけるというのはあまりにナイーブな行動だと思う。

 

 そうこうしているうちに以下の記事を見つけた。

Japan’s ‘BBC’ bans any reference to wartime ‘sex slaves’ | The Times

 もし本当なら性奴隷に関する情報は国としてフェードアウトしていく気らしい。これがまた日本以外の報道からすっぱ抜かれているところが日本のメディア劣化を示している。

 性奴隷をなかったものにする気なのだろうか。うがった見方だが、性奴隷を、いや奴隷制度そのものを将来的に正当化する流れを作ろうとしているのか。イスラム国は奴隷制度を正当化したらしいが、日本もそのうち引けを取らない蛮族国家となる日も近いかもしれない。そうならないことを切に願う。