異国見聞私書録

異国から見たこと感じたこと気になったこと。そして時折テクノロジーのお話。

富裕層に富を偏在させても社会は決して良くならない

 影響力あるブロガーが、この程度の認識力ではちょっと問題である。単なるツッコミどころ満載な炎上ネタであると信じたい。

富裕層に富を偏在させよう! - Chikirinの日記

日本でトップ 1%の富裕層と言えば、孫正義社長とか柳井正社長あたりだと思うけど

 冒頭からブラック企業の疑いがとても強い会社の経営者の一人が紹介されている。筆者に言わせれば、彼は自分の力で稼いでいるとは理解していない。反対に自分の影響力により、他者から奪い取る力には長けているとは思っている。

 そもそも富者となっている者たちが純粋に自分の力で、今の地位を築いているのと言えるのか。他者の力添えがあったからこそ富者と成れたのではないか。

 富者になっていくきっかけは確かに自助努力かも知れない。しかし、現在の地位まで上り詰められたのは断じて自分の力のみではない。時代、教育背景、出会う人々、運なども相乗的に重なり合ってはじめてできたことではないだろうか。もし自分の力のみで今の地位を築き上げたと考えているのであれば、それは傲慢以外の何ものでもない。そしてこの傲慢さこそが、ブラック企業経営者の根底価値観を支えているものの一つであると筆者は見ている。「自分のモノは自分のモノ」という価値観が行き過ぎればそれは、「他人のモノも自分のモノ」というジャイアニズムに発展することもあるのだ。

 このブログ主が紹介している人たちの中にはそのような人間も含まれている。そのような人たちに資産を集中するのは本当に「何も悪くない」ことなのであろうか?

 

 OECD (経済協力開発機構)が興味深いレポートを出している。

http://www.oecd.org/els/soc/Focus-Inequality-and-Growth-JPN-2014.pdf

新たな統計データは格差問題は成長にとり重要であることを示唆しており、成長促進と格差対策のトレードオフ関係という見方に終止符を打つ。 

格差の抑制や逆転を促す政策は、社会の公平化に繋がるばかりでなく、富裕化にも繋がり得るのである。 

  詳しくはPDFを読んでもらうとわかるが、要するに富を偏在化することで、自動的に下位にもその富の一部が滴っていくというトリクルダウンモデルを否定しているわけである。上記のブログ主の言いたいことは、その逆で今よりもさらに富を偏在化させることで、つまりトリクルダウンモデルをさらに強化することで、社会が豊かになって行くという発想である。さらに、

問題は、お金を大幅に増やした実績をもつトップ数%の人が富を独占していることではなく、経済的に恵まれない人たちが、満足に食べていけないとか、必要な教育を受けるお金がないとか、病気になっても医療が受けられないとか、そういう状態にあることです。これって全然違う問題なので、あまりごっちゃにしない方がいい。「何が問題で、何は問題じゃない」というのをきちんと理解しないと、単なる妬みになってしまう。

と述べ、富の偏在と教育・医療問題には相関性がないという。しかし、このOECDのレポートによれば、

格差は不利な状況に置かれている個人の教育機会と上方流動性に大きく影響する

とし、少なくとも教育においては相関性があることをかなり詳細な調査を行った上、認めている。

 別にOECDが述べていることが万能とは言わない。が、労働搾取に長けている経営者を持ち上げているブログと、現在の社会状況を世界から俯瞰して見た調査結果とどちらに説得力があるかは読者の判断に委ねるとしよう。

 

 まだある。

・・・あたしとしては、今よりずっとたくさんのお金を富裕層に預けたいくらいです。

役人や銀行にお金を預けるより、「お金を増やすのが得意な」富裕層にお金を預けた方が良いという。確かにそうなのかもしれない。ブラック経営者や反社会勢力をも含んだ「富裕層」に直接預けていれば、確かにそれでお金は増えるかもしれない。だが多くの違法行為、潰されて行った従業員、そして流れた血の上に築き上げた「貯蓄」に社会的な価値があると本当に言えるのだろうか?自分の「お金」さえ増えていけばいいのかもしれない。だが、それはブラックな経営者と同じ発想をしていると言えなくはないか。

 経営者の全部が全部ブラックと言っているのではない。法律を守り、従業員を大切にする経営者は日本にたくさんいる。ただそうした良識ある経営者であれば、「私にお金を預けなさい」などという態度は取ることはなく、「私のお金を預けさせてください」と言われても即決で判断をすることなど決してないだろう。どちらかと言えば断られることの方が多いのではないだろうか。

 

 まとめるとこのトピックで引用したブログ主の主張していることは、申し訳ないが、かなり「歪んで」いると言わざるを得ない。少なくとも筆者はこの件について賛成することは決してできない。冒頭にもあるように炎上ネタの一つにしか成り得ない、レベルの低い議論であることは確かだろう。まぁ、レベルの低い議論に乗ってしまった筆者もなんなのだが・・・。