異国見聞私書録

異国から見たこと感じたこと気になったこと。そして時折テクノロジーのお話。

最も効果的なテロ対策とは何か

 ここのところ、英国でテロが続いている。

英マンチェスター爆発、死者22人に 自爆攻撃と警察 - BBCニュース

英ロンドンでテロ、6人死亡-車暴走、刃物で襲撃 - Bloomberg

長く住んでいると肌感覚で伝わってくるが、たとえ英国に住む異国人であろうとも、ここまでくれば他人事ではなくなってくる。犠牲者には哀悼の意を表したい。

 

 

 英国はこれから犠牲者への追悼、テロへの怒り、再発への警戒など次から次へやるべきことは山積していくことだろう。ニュースでは民主主義への挑戦だといい、選挙は予定通り行うことこそがテロへ屈しない姿勢だと頻繁に述べている。通常通りの生活をすることこそが、テロへの対抗策だともいう。

 その事件現場での対策や活動は決して悪くない。今回のロンドンでのテロも通報から8分で食い止めたそうだ。ここまで早く止められたのは普段からの訓練やパトロールの成果と見ることもできる。今回犠牲者になった7名を多いとみなすか少ないとみなすかは、今後の調査に委ねられる。

だが筆者が気になるのは「なぜテロが起きるのか、なぜ狙われるのか」という根本原因への問いかけがあまりされていないことである。テロリストは民主主義を嫌っているから、そもそも異教徒や異文化の存在を認めない教えだから、などという今ひとつ腑に落ない理由でしか報道されていない。

どこかの漫画の登場人物にあった「悪・即・斬」、悪い奴はすぐに殺せという短絡的な思考が先行し、なぜそのような行動に出たのかという時間のかかる分析プロセスはわきにおかれ、あまり吟味されない。あらかじめ「話の通じない野蛮な輩」という前提が作られており、対抗手段にのみ焦点が当たる。

 

 おそらく、この場当たり的な対応ばかり続けていく限りにおいて、テロはなくなることはないし、少なくなることもない。何が根本的にテロを招いているのか、その分析もなしに根本的な対抗手段など取れるはずもないからだ。

テロ組織への資金源や人材流入を遮断することが原因への対処、などといった浅い話をしているのではない。なぜ資金提供やテロ組織へ志願するようになったのか、もう一段踏み込んだ分析がされない限り、テロ行為はなくならない。

 そしてこれは英国や米国の経済/国家戦略ともつながることでもあり、たぶん政治家や企業はあまり議論の俎上に載せたくない事柄でもあるのだろう。だからこそ「テロリストは民主主義を嫌っている」などといった稚拙な理由で国民を納得させようとしているのだ。

 

 戦争、紛争、戦闘、武力衝突など、言い方はいろいろあるが、つまるところ「戦い」を前提においた経済循環に依存する限り、テロ活動は必然的に生じてくると筆者は考える。

「戦い」そのものだけでなく、それに付随する貧困をトリガーにテロ活動へ発展することもあるだろう。だが、その本質は戦いによる憎しみであり、それを煽っている経済循環へと憎しみが移行して来たにすぎない。テロリストは民主主義を嫌っているのではなく、民主主義を標榜しながら、戦いと貧困を連鎖させるその循環に対して怒りを持っていると理解した方がしっくりくるのではないだろうか。

 

 これを前提に思考を進めると根本解決策そのものはたぶん容易い。武装解除と武器購入にまわす資金を貧困に対する援助として進めればいい。戦いを前提にした経済循環から、貧困からの脱却と繁栄を前提にした経済循環にすればおそらくテロ活動は劇的に減るはずだ。

ただし、この考えそのものは容易いが、行うのはものすごく大変だ。一度戦いと憎しみに身を浸したものにとって、武器を捨て去ることは容易ではない。また「戦い」で稼いで来た企業にとっては営業妨害以外の何ものでもない。

 

 だからといって不可能なことでもない。今はきな臭くなりつつあるが、日本が過去70年以上に渡って諸外国から大規模なテロ行為を受けていないのは、単に海に囲まれた地理的条件と米国の庇護があるからではない。まがりなりにも戦争放棄と武装解除を宣言してきたことは諸外国に信頼を与えてきたはずである。その実績こそを「日本スゲェー」としてもっと世界に知ってもらってもいいはずであるが、そうならないのはなぜか、皆様にもぜひ考えて見てもらいたい。