異国見聞私書録

異国から見たこと感じたこと気になったこと。そして時折テクノロジーのお話。

「新しい働き方」はブラック企業にとってもチャンスとなる

 最近この方の動画や記事をよく見かけるようになった。以前にも当ブログで取り上げたことがある。長時間労働から短時間労働へという考え方にはとても共感できる。

小室淑恵「人口構造から見るゲー­ムチェンジの必要性」―人口ボーナス期から人口オーナス期へ | 日刊読むラジオ

 非の打ち所のない記事である。編集後記にもあるが、これに納得できない人はほとんどいないだろう。ただ、筆者はかなりヒネた性格であるため、非の打ち所のない話というのは少し眉にツバをつけて聞くようにしている。

 こうしたストーリーがまともに進んでいけば、ブラック企業など駆逐されていきそうなものである。が、おそらくことはそう単純ではない。単位時間あたりの生産性が上がっていけば、短時間労働で済むかといえばおそらくそうはならない。単位時間あたりの生産性を上げた状態で、長時間労働をさせるよう仕向けていくというのがブラック企業のやり方だからだ。別にブラック企業に限った話ではなく、単位時間あたりの生産性が向上したら、それを多くの時間数でかければ利益が伸びるに決まっており、それを望む企業は多いだろう。従業員の単位時間あたりの生産性を上げるやり方を習得したいと多くの企業経営者は思うだろうが、短時間で労働を切り上げてほしいと考える企業マインドを持った経営者は未だ少ないはずだ。そこの砦をどのように切り崩しているのか、そもそも切り崩せているのか機会があれば是非伺いたい。

 

 結局のところ長時間労働の問題は被雇用者側への早期雇用段階からの教育と、権利行使が容易にできる環境構築、そして労働時間規制強化にかかっていると筆者は現段階では考えている。昔は家族的に和気あいあいと仕事を行ってきた職場も、現在では表面的な部分しか残っていない業界も多い。一皮むけば社員の使い捨てであったり、法律を守らないブラックな体質であったりすることは今の日本では珍しくなくなった。とても残念なことではあるが、被雇用者側はそれに対抗する具体手段を持つほかない段階まで来てしまっているように思える。働き方を変えましょうと経営者に説明して、どこまでそれを浸透させていくことができるのか、正直まだこのプレゼンテーションからは見えてこない。

 また、介護・育児・共働きという要因を伴った働き手が増えていくからといって、おいそれとそれに合わせた勤務形態を政府や財界が受け入れるとは思えない。興味を示すことはあるだろう。だが、今までの彼らの行動と経験から察するに、介護・育児・共働きという要因を持ちながら今までどおり長時間働くか、そのうちのどれか、もしくはそのすべてを捨ててでも働くよう仕向けてくる可能性も捨てきれない。穿った見方なのは承知の上だが、そうした視点を持っておくことも大切である。

 

 新しい働き方や、そのルールを作っていくことは今後必須となるのは疑いようもない。だが、それを口実に解釈を変えたり、骨抜きにされたり、ワーストケースでは労働時間の規制緩和を付け加えられたり、本来の意図とは程遠い、ブラック企業の都合のよいものになっていく可能性もある。

 こうした新しい働き方が広まっていくことに対して賛意を表したいが、同時に警戒の目も併せ持ちながら進めていただけたらと思う。