異国見聞私書録

異国から見たこと感じたこと気になったこと。そして時折テクノロジーのお話。

スコットランド独立はその成否にかかわらず後も揺るがす現象である

読んだ本の書評を書いていきたいのだが、最近いろいろ興味深いニュースがたくさん出てきており、それどころではなく、書評する本のバックログが溜まってきて困っている。以下のニュースもおそらく今後世界を揺るがすものになるのではないかと勝手に妄想を広げている。

スコットランドで何が起こっているのか――民族とアイデンティティを超えた独立運動 / 久保山尚 / スコットランド史 | SYNODOS -シノドス-

スコットランド狂想曲:経済とスピリットはどちらが重いのか(ブレイディみかこ) - 個人 - Yahoo!ニュース

【スコットランド独立投票】賛成が8ポイントリードの世論調査も予断許さぬ大接戦 (1/2)

英国に来て思うのは、英国は「連邦」なのだということである。所謂、ユニオンフラグやユニオンジャックも見かけるが、赤と白のイングランドの旗や青と白のスコットランドの旗も掲げているところもよく見かける。ちょっと地方に行けば、米国以上に英語のアクセントは異なっていると思うし、文化や風習も異なっていることだろう。

スコットランド人のアイデンティティや民族性が濃いというのは理解できるが、どうも今回の選挙はそれでは説明がつかない現象が起きているようだ。一つ目の記事から引用する。

しかし1980年代以降、経済、社会政策の多くの面で、スコットランドとUKが違った道を選択し始めており、21世紀に入りその差は大きくなりつつある。UK政府は市場経済主義を取り入れ、金融規制緩和、NHS等公的サービスの民間運営化等を積極的に行う一方で、福祉国家の縮小を推し進めている。さらに軍事・外交面では、イラク侵攻、核兵器トライデントの維持等の政策に固執し続けた。

1980年代というのはマーガレット・サッチャーが治めていたときだ。彼女の評価大きく別れており、嫌われ度合いもなかなか凄まじい。彼女が亡くなったとき、「Ding Dong The Witch is Dead」というオズの魔法使いの挿入歌をラジオ曲のトップに推し上げようとする運動が起きたほどだ。ちなみにトップにはならなかったらしく、2位で終わった。

サッチャーが市場経済を積極的に進めた結果、より富める者と貧者の格差が拡大してしまったことは事実だろう。社会福祉も削られたことから、病院などでもサービス低下がひどい。大企業や金融機関ばかりが優遇され、その富は下にまで滴り落ちてきていない。トリクルダウン理論は幻想であったことが実生活の中で証明されたという想いを持つ人々は少なからずいるということなのだ。

転職したある友人が述べていたが、英国において金融機関で働くのとほかの一般企業で勤めるのとでは、給与が2倍から3倍異なるという。システムを保守していた別の友人は、転職のポリシーとして、金融機関のシステム部門しか狙わないと言っていた。それほどまでに給与/職業格差が生じてしまった国で、不満が募らないはずはない。

どこかで既視感のある話だと思わないだろうか。ついこの間に「occupy wall street (ウォール街を占拠せよ)」という運動が盛んであったことを思い出す。ウォール街に限らず、世界各地で起きたこの運動の延長線上に今回の独立投票もあるのではないかと思わずにはいられないのである。ある意味、スコットランドを市場原理やグローバル経済から離れた「理想郷」にしようという想いが、独立賛成派のどこかにあるのではないだろうか。

 

ただし、「occupy wall street」もいつの日か収束へと向かっていった。弾圧や規制が厳しくなっていったというのも一因としてあるだろうが、デモを巧みにガスを抜きながら収束させていく「手法」もあるときく。スコットランドの独立賛成派がどこまで票を伸ばすか注目に値するが、僅差で競り合っている状態では難しいのではないかと筆者は考える。

独立が夢物語として終わったとしても、今回の影響はほかに波及する可能性はある。特に票差がわずかであった場合は、ほかの国で同じような独立機運が高まってもおかしくはないだろう。問題は独立が可能であったとしても、必ずしも平和裏に行われるとは限らないことだ。独立しよう/した国が内紛問題を抱えてしまった例は枚挙に暇がない。

今回の独立投票はイギリス国内外であれ、良きにしろ悪しきにしろ、各地で長らく後を引く現象となるのではないだろうか。